スポーツ現場において、常に隣り合わせとなる傷害の一つが『肉離れ』ではないでしょうか?
これは、どのスポーツにも起こり得るからこそ日々選手のサポートをしているトレーナーの皆さんは、その病態メカニズムを確実に押さえておきたいところです。
現在、多くの研究で肉離れのメカニズムについては報告が上がってきていますが、今回は少しミクロな部分に切り込んでいきたいなと思っています。
キーワードは『筋腱接合部(MTJ)』です。
この記事では、「肉離れはこんな場合で起こりますよ」という現象を説明するものではありません。
伝えたいのは以下2点です。
- どのような筋繊維が肉離れを起こしやすいのか?
- その理由はなぜなのか?
この2点を2019年に行われた生理学研究を根拠にしながら解説していきたいと思います。
現在、スポーツ現場で働かれている皆さん必見です。
ぜひ最後までご覧ください。
【肉離れの病態メカニズム】筋腱接合部が教える筋損傷リスクの秘密を分かりやすく解説!
肉離れの原因
はじめに、まずは肉離れの原因についてざっとおさらいをしておきましょう。
肉離れの原因はいくつかあるのですが、その中でもよく報告として挙げられているのは2つです。
一つは『下肢の固有感覚障害』、もう一つは『大腿四頭筋に対するハムストリングスの筋力比』です。
この2点は肉離れの原因としてよく観察される因子になっているので、しっかり押さえておきたいところです。
なお、この点については、以下の記事で詳しく解説しているのでご興味ある方はご覧ください。
肉離れの好発部位である筋腱接合部とは?
筋腱接合部(MTJ)は筋肉と腱が結合する部位で、力の伝達に重要な役割を果たします。
MTJは、力の伝達がスムーズに行われるように設計されている一方、筋損傷(肉離れ)が発生することが多い部位でもあります。
そして、実はこのMTJ。
筋繊維のタイプ(Ⅰ型とⅡ型)によってその面積に違いがあるんじゃないかと以前から示唆されていたんですが、MTJはその構造上折りたたまれているような形になっているので、これまでの研究で(筋繊維のタイプにる)面積の違い自体は明らかにされていませんでした。
ところがところが…
2019年、Jakobsenさんらが免疫組織化学法(IHC)と共焦点顕微鏡を組み合わせた新しい方法で、人の筋腱接合部の表面積を明らかにする事ができるようになったんです。
本当、研究者の皆さんには頭が上がりません…
ありがとうございます!
そこで、いよいよⅠ型とⅡ型の筋繊維で筋腱接合部の面積が異なるかどうかが調査されました。
その調査結果をまとめた論文がこちらです。
今回はこの論文をベースに解説していくZE!!
この研究が行われた当初立てられていた仮設は、「タイプⅡ型筋繊維のMTJの面積の方がタイプⅠ型筋繊維よりも小さいんじゃねーだろうか?」という事でした。
MTJの面積が小さいということは何を意味するのか、みなさんお分かりですか?
〜ちょっと考える時間〜
MTJの面積が小さいと何が示唆されるか、それは「肉離れが生じやすい可能性がある」ということなんです。
筋腱接合部の面積が小さいと肉離れが生じやすい理由は?
MTJの面積が小さいと肉離れが起こりやすい理由は、筋力がMTJに伝達される際の応力分布に関係しています。
先ほども軽くお伝えしたように、MTJは筋肉と腱が接続される領域で筋肉から発生する力が腱に伝達される部位です。
つまり、MTJの面積が広いほど筋肉から発生する力がより広範囲に分散され力が均等に組織に加わるので、その結果MTJの特定の部分に力の集中を防ぐことが可能となり、肉離れのリスクを低くする事ができるんですね。
そして、一般的にタイプⅡ型筋繊維の方がタイプⅠ型筋繊維よりも肉離れが生じやすいことから、仮説として「タイプⅡ型筋繊維のMTJ面積の方がタイプⅠ型筋繊維よりも小さいのでは?」となったわけです。
なんとなくピンときました?
研究方法を簡単にご紹介
研究には10人の被験者(3人の女性と7人の男性)が参加し、3ヶ月間ハムストリングスを鍛える抵抗運動を行っていないことが条件となっていました。
また被験者は主に非アスリートですが、ランニングやサイクリング、軽い有酸素運動といった運動は定期的に行っている人たちです。
今回採取した筋肉はハムストリングスの中でも半腱様筋だったみたいよ!
なお、今回MTJの解析には『共焦点顕微鏡法』が用いられているんですが、この方法のメリットは「全ての筋繊維を測定できるだけでなく、筋繊維タイプも簡単に識別できること」なんです。
これにより、タイプ別のMTJ面積を調べることが可能となったわけですね。
じゃあ、結果見ていきましょ。
タイプI繊維とタイプII繊維における筋腱接合部の違い
タイプⅠ繊維のMTJインターフェイス領域は、タイプⅡ繊維と比較して平均で22.3%大きいことがわかりました。(p = 0.023)。
また、繊維の直径に対してもタイプⅠ繊維のインターフェイス領域はタイプⅡ繊維よりも有意に大きいことが分かりました(p = 0.008)。
ほう!仮説通り、やっぱりタイプⅠ筋繊維よりもタイプⅡ筋繊維の方がMTJ面積が小さかったんだね。
インターフェイス領域とは?
インターフェイス領域とは、一般的には異なる2つの物質、構造、またはシステムが接触または相互作用する領域を指します。
今回の記事の文脈でいくと、インターフェイス領域とはMTJにおける筋繊維と腱の接触面積を指しています。
このインターフェイス領域は、筋肉から腱への力伝達が行われる場所であり、その構造や面積が肉離れのリスクに影響を与えることが考えられます。
筋繊維タイプにおける筋腱接合部の違いから分かる肉離れの予測
さて、では結果を元にしながら臨床現場に活かせるポイントを解説していきます。
まず、タイプⅠ繊維の方がMTJインターフェイス領域が大きいことから、タイプⅠ繊維は力学的負荷による損傷に対してより耐性が高い可能性があります。
まぁ、タイプⅠ繊維に該当する筋肉の肉離れが少ないことを考えると…
「そりゃそうだよね」
となりそうですね。
加えてタイプⅡ繊維はタイプⅠ繊維に比べてより速く強力な収縮が可能であるということに加え、面積の小さいMTJであるが故に筋損傷、つまり肉離れを引き起こす可能性があります。
肉離れを予防する方法
周知の事実ではあるかもしれませんが改めて、タイプⅡ繊維、つまり瞬発的に大きな筋活動を必要とする筋肉のケアは日頃から十分丁寧に行っていく必要があるかと思います。
例えば、広く多くの方に実施できる代表的な方法といえば『静的ストレッチ』が挙げられます。
これは、筋肉と腱の柔軟性を向上させることで、MTJにかかるストレスを軽減しその結果として肉離れのリスクを低減することができます。
もしくは、トレーニングによってMTJの面積自体を増やす事ができるとも言われていて、これも一つ肉離れの予防としては重要ではないかと思います。
ただ、僕自身今それら知見が手元にないため、また分かり次第追記して参りたいと思います。
肉離れの病態メカニズムまとめ
以上が、肉離れを引き起こす際の好発部位となりやすい筋腱接合部の解剖学についてでした。
結論、タイプⅡ繊維に肉離れがよく起きやすい一つの理由としては、この筋腱接合部がタイプⅠ繊維に比べてその面積が小さいということが挙げらました。
筋腱接合部の面積が小さいと、力の伝達を分散させることができないことから、結果として肉離れが生じやすいと言われています。
今回の内容がみなさんの明日の仕事の一助になれば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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参考文献
Larger interface area at the human myotendinous junction in type 1 compared with type 2 muscle fibers.Jens Rithamer Jakobsen,2019より引用
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