さて、以前も『腰痛に対するオステオパシーの効果とはいかに!』的なテーマでお話ししたのですが、今回もそれに関連したもので、慢性腰痛に対して果たしてオステオパシー手技に効果があるのか?というのを解明していきたいと思います。
ただし、参考文献は以前書いた記事とは異なるので、ぜひ今回の記事もご覧になって頂けると嬉しいです。
ちなみに、今回ご紹介する論文はこちらです。
こちらの論文をもとに、慢性腰痛に対するオステオパシーの効果について検証していきたいと思います。
【オステオパシーのエビデンス】慢性腰痛に対するオステオパシーの効果と病態解釈
研究の概要
目的
では、この研究の目的についてざっくり説明するとこんな感じです。
慢性腰痛患者に対してオステオパシーによる手技を行うと症状の改善は見られるのか?加えて、その改善がみられた場合に効果はどのくらい継続するのか?
と、こんな感じです。
対象者と実験方法
- 過去3カ月の間、腰痛が存在しているが『レッドフラッグ』の条件に当てはまらない者。
- オステオパシー手技をこれまで受けたことがない、または過去12ヶ月間に徒手療法の使用頻度が低い者。
- オステオパシー群→95人
- プラセボ群→91人
- 対象者の年齢中央値:43歳
上記の取り込み基準に合致した対象者は、15分間の治療セッションで実施される本物のオステオパシー手技群と偽のオステオパシー手技群(要はプラセボ群)に無作為(ランダム)に割り付けられました。
治療は、0週目・1週目・2週目・4週目・6週目・8週目と合計6回治療セッションを行い、治療期間8週目を終えた後の12週目には対象者へ訪問を行い効果(腰痛の軽減)が持続しているかを確認しました。
『腰痛が軽減した』ということだけど、その定義は?
『腰痛の軽減』に関する定義ですが、これは0週目の腰痛の主観的強度を100%とした場合、訪問を行った12週目にそれが半分以下(50%以下)となっている状態であれば、『腰痛が軽減した』とここでは定義しました。
逆に、施術後に腰の痛みの強さが50%を下回らない場合は、『オステオパシーの効果なし』と判断しました。
オステオパシーの手技っていくつか種類があったと思うけど、何を用いたの?
この研究で用いられたオステオパシーの手技は以下になります。
- 高速・低振幅のスラスト、中速・中振幅のスラスト
- 軟部組織のストレッチ、ニーディング、プレッシャー
- 筋膜リリース
- 筋膜圧痛点のポジショナル・リリース
- 筋エネルギー・テクニック
※この辺りの手技の内容を勉強したい方は、こちらの記事でオステオパシーの参考書籍について紹介していますのでご覧ください。
慢性腰痛患者に対しオステオパシーを実施した結果
1週目〜12週目まで安定してオステオパシーの効果がみられた割合
- オステオパシー群:49人/95人
- プラセボ群:23人/91人
両者には『有意差あり』という結果が出たことから、オステオパシーは慢性腰痛に対して一定の効果が見られることがわかりました。
1週目で初期反応(効果あり)が見られた割合
- オステオパシー群:54人/95人
- プラセボ群:35人/91人
このそれぞれの数のうち、12週目に再発した割合は…
- オステオパシー群:13人/54人
- プラセボ群:18人/35人
となっていました。
オステオパシー群は約20%が再発したのに対し、プラセボ群は約半数の50%が再発する結果となっているようにこの結果だけ見ると、やはりオステオパシーは慢性腰痛に対して一定の効果と持続性があるように思えます。
【その他】慢性腰痛に対しオステオパシーを実施したことで分かったこと
この研究では、慢性腰痛に対するオステオパシーの効果と持続期間のほかにいくつか明らかになったことがあったので、以下にそれを一覧でまとめます。
オステオパシーを受けた患者はプラセボ群に比べて、腰痛に関する薬の処方が減少した。(Licciardone JC,2014)
オステオパシーの効果は、『うつ病を併発していない患者』と『慢性腰痛が1年以上続いている患者』で最も大きく有意なものであった。 逆にいえば、『うつ病』を併発している人は再発する確率が高かった。(Licciardone JC,2014)
オステオパシーの効果が現れやすかった者の特徴は、21〜39歳の患者 、現在タバコを吸っている人 、慢性腰痛の持続期間が1年以上で背部特有の機能障害が大きく一般的な健康状態が悪い患者であった。(Licciardone JC,2014)
※最後に書いてある、「一般的な健康状態が悪い患者」の定義がちょっと訳が難しく曖昧です。(ごめんなさい)
慢性腰痛に対するオステオパシーの効果まとめ
今回の研究結果を踏まえると…
どうやら、オステオパシー手技そのものは慢性腰痛患者に効果があると言えそうです。
特に運動機能障害がメインで一年以上腰痛がある人に関しては、より効果が高そうであるという結果が得られているので実施してみる価値がありそうです。
ただし注意点はあります。
それは、この研究において“どの手技が効いたのか”という点については詳しく述べられていないことです。
よって、「オステオパシーは腰痛に効くんだ=どの手技をやっても問題ないんだ!」と過大に解釈せず、もう一歩論文を読み込んでいく必要がありそうです。
そして、最後に一つ確実に抑えておきたい点があります。
それは、『慢性腰痛患者』をバクっと一塊でとらえないということです。 というのも、一言で慢性腰痛と言ってもその中に潜む病態は異なるからです。
本記事の後半に書きましたが、今回の研究においていくら腰痛が一年以上続いているといっても、『うつ病』を併発している人に関してはそこまで効果的ではなかったという結果が得られています。
つまり、発症からの期間的には慢性腰痛の分類にあったとしても、そこに付随して別の病態が複雑に絡んでいればまた違った方法論を検討する必要があるかもしれません。
『オステオパシー is KING!!(オステオパシー最強!!)』とならないように
ここはすごく重要で、このような手技系の論文を追っていくと結果として「効果的である」と結論づけられると「全てに効きそうだ」と安易に解釈しがちになってしまうからです。
この解釈は非常に危険です。先ほど述べたように、いくら慢性腰痛といってもリアルな臨床の現場においては必ず例外となる病態を持つケースが存在するからです。
だからこそ研究から分かった結果は一つの事実として受け入れつつも、それを盲信せず一歩引き俯瞰的に捉えていく意識を持っておきたいところです。
本研究の限界点
これに関しては、この研究の限界点の部分でも触れられていたので最後にこの点をご紹介して終わりたいと思います。
本研究の結果には未知の交絡因子が隠れている可能性がある。(Licciardone JC,2014)
交絡因子とは、原因と結果の間に絡む第三因子のことで、この交絡因子があることで因果関係が歪んでしまう可能性があります。
つまり、今回腰痛という結果に対しオステオパシーを行ったが、もしかするとオステオパシーの効果以外の要因が働きかけて腰痛の軽減につながった可能性があるということです。
この辺りも非常に大事なところで、因果関係を抑えていく上ではこの交絡因子の存在は常に頭の片隅に置いておかなければいけません。
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