今回は、『臨床推論で起きがちな誤った推論展開』というテーマでお話ししていきたいと思います。
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーションセラピストのほとんどは、毎日の臨床で臨床推論を行なっていると思います。
この作業を円滑に進めていくためには基礎知識はもちろん、そこに加えて『論理的思考力』や『問題解決能力』ですね。
こういった『考える力』というものが、臨床推論を行なっていく場合には必須になってきます。
では、もし臨床推論にこれら考える力がなかったらどうなるのか?
それは、多くのケースにおいて「患者様に必要なリハビリテーションではなく、自分の興味関心があるリハビリテーション」が先行しやすい状態となってしまいまいやすいです。
具体的には、確証バイアスによって自分が欲しい情報(評価)のみを集めてしまったり、三た論法によって論理が飛躍し「再現性が乏しい」臨床を展開してしまうといったことがよく起こります。
そこで、今回はこの中でも恐らく最も頻繁に起きがちであろう、三た論法によって再現性の乏しい臨床推論の例について分かりやすく解説していきたいと思います。
- たった一回効果があったように見えるその方法で天下獲った気になるのは大間違い
- 最初から方法が決まった状態で臨床がスタートしてない?
- 方法論先行型によるリハビリテーションのここがまずい
- セミナーのチャンピオンケースに騙されるな
【ドラゴンボールから学ぶ】臨床で起きがちな誤った推論展開
それでは、早速ですが臨床で起きがちな誤った推論展開の例を見ていきたいと思います。
まずは、こちらをご覧ください。
- FACT:脳卒中患者に有名な温泉に入ることを勧めた(例)
- 結果: 麻痺が改善した
- 結論:“脳卒中に”この温泉は有効なのだ
このケースをみて「おいおい、待て待てあんまりだぞ。」と感じる人って結構いると思うんですが、このようにあからさまに“怪しい”ものに関してはみんなそう思うんですが、実はリハビリテーション界隈においてこの思考になっているパターンは結構多いです。
要は、「やった、治った、効いた」という三た論法的な臨床推論ですね。
この論法にはいくつか誤り(反証可能性)があるのですが、ここでピックアップしたいのが『再現性』の部分です。
クリリンはベジータより強い!?
この話しをもっと分かりやすく理解するために、少し例を出しながら考えていきましょう。
ひとまず、以降の文章を読み進める前にまずはこちらの写真をご覧ください。
※ドラゴンボールを知らない人はごめんなさい。ただ、ベジータとクリリンの力関係だけなんとなく分かっててもらえたらイケます。
さて、この切り抜き画像はドラゴンボールZにおけるワンシーンで、訳あってクリリンがベジータを瀕死にさせる描写です。
で、このワンシーンをみて『クリリンはベジータよりも強い』という風に言われたらどうでしょうか?
おそらく、ドラゴンボールを知っている人であれば「アホか。んなわけ」と答えると思います。 ただ、実は先ほど例に出した三た論法的な結論の至り方ってこの構造と何ら変わりません。
- FACT:クリリンがベジータを攻撃した
- 結果:ベジータは瀕死を負った
- 結論:クリリンはベジータよりも強いんだ
このように、前後の文脈も考慮せずたった一部のワンシーン、臨床に置き換えるならば、たった一回のケースだけを切り取って「やった、治った、効果があった」というのはどう考えても無理があるんですね。
もし本当にその方法に効果があることを証明したければ『再現性』が必要なんです。
例えば、クリリンがベジータよりも強いことを本当に証明するのであれば、このワンシーンのみではなくもっと沢山戦いそこでクリリンが勝ち越すというFACTが必要になるでしょう。
同じように冒頭の例の話しをすると、「脳卒中後遺症患者様の麻痺に対して有名な温泉が効く」ということを証明したければ、シングルケースでの検証ではなくもっと被験者を増やして検証しなければなりません。
もしくは、入らなかった群と入った群をランダムに振り分け、そこで比較検証が必要だったりします。
大事なのは『なぜ?』を最初に考えること
今回、温泉のケースとドラゴンボールのケースを例に考えていきましたが、この2つの例で共通していることがあります。
それは、「Why?を考慮できていない」ということです。
要するに、「なぜ、その方法を行なったのか?」という問いですね。
方法論(クリリンがベジータを攻撃した)を差し詰め『How』だとするならば、冒頭の温泉のケースもドラゴンボールのケースもこのWhyのプロセスがごっそり抜けているわけです。
ドラゴンボールのケースにおける『Why?』は、「そもそもなんでクリリンはベジータを攻撃したのか?」ですよね。
で、これを紐解くと知っている人は知ってると思いますが、一言でいうなら…
「ベジータがクリリンに自分を攻撃させるよう頼んだからだよね」
なんです。この『Why』をしっかり抑えていれば、決して「クリリンがベジータよりも強い」なんていう解釈にはならないはずです。
臨床推論においてもまずは病態解釈が何より大事
『Why?』のプロセスを臨床に置き換えると何がくるか、というとそれは『病態解釈』です。
臨床推論を行なっていく際にも、まず『Why?』を先に考えていくということがとても大切になります。
例えばAという方法を用いたのであれば、それに対して「なぜその方法を用いたのか?」という問いがきて、その問いに応えようとすると必ず「◯◯という病態があるから」という病態解釈があるはずです。
これが、本来方法論を意思決定するまでに必要な思考プロセスなのですが、やはり多くの場合ここが抜け落ちているのです。
つまり、「最初から用いる方法論が決まった状態で臨床推論をスタートしてしまう」ということですね。
これをやってしまうと、臨床がある種ギャンブルになってしまうんです。なぜならば、その方法が病態に対して奇跡的に合わないと患者様が良くならないからです。
臨床思考力が乏しいことによって生じる弊害
今回、“臨床において必要な推論の進め方”というような切り口で話したつもりなんですが、実はここまで話してきた内容というのは、研究を行う際に必ず考えるべき視点だったりします。
逆に言えば、研究を行なっていく際の思考プロセスこそ臨床に転用する必要があると個人的には思っていて、だからこそ研究がカリキュラムの一つに入っている大学院なんかは、思考のトレーニングとしてもってこいの環境であると考えています。
このように、臨床推論というのは進めていく上で必ず抑えておかなくちゃいけない点があるのですが、ここが乏しいことによって大きな問題も生じています。
その代表的なものが、チャンピオンケースによる三た論法のゴリ押しセールですね。
要は、いかにも怪しい高額セミナーなどで「これをやれば治ります!!」というのを、たった一つのチャンピオンケースを使って説明しそれで聴衆の心をつかんでいく、みたいな話しです。
このように、臨床家が上手くいったケースを提示する際、結論の出し方を誤ったままその解釈を他者に伝えてしまうとかなりのミスリードになってしまうのですが、「これってチャンピオンケースだよね」ということを聴講者が知らないと、「まるで魔法みたいな方法出スゴイ!」と、その方法の虜になってしまうわけです。
この状態が蔓延すると、「これをすれば治る/良くなる」というように、考えることを全くせず臨床を行っていくセラピストが量産される可能性が極めて高いので、少なくとも情報を取る側の私たちは、『効果があったと証明には』みたいな最低限の知識は知っておく必要があると思っています。
誤った推論展開まとめ
今回お伝えした内容は、臨床推論を行う際によく生じる問題であり、だからこそ改めて抑えて頂きたいポイントは…
「なぜ、その方法を用いたのか?」
という問いに対して、自分自身が答えられるようになっておくことです。
そうすれば、自ずと丁寧に病態解釈を行う癖が身に付くので、この記事を読んで多少なり「やばい、心当たりあるぞ…」と感じた方は、ぜひ明日の臨床から意識を変えていきましょう。
また、セミナーや勉強会を提供する側にも方法論の優位性をミスリードする講義が頻発していたりもするので、情報収集の際にはその辺り気をつけて頂けたらと思います。
(とりあえず、「効果があります!」と強く謳っているものには一歩引いた視点で見ることをお勧めします)
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