骨折や靭帯損傷、切り傷等によって必ず生じる症状の一つ。
それが『炎症』です。そして、この炎症が生じることで多くの場合“痛み”を伴います。
そこで、皆さんに一つ質問です。
炎症が生じるとなぜ“痛み”を伴うのか。そのメカニズムをご存知でしょうか?
炎症があると痛みも出るって、直感的には分かるけど…なんでかって言われたら説明できないかも…
そう、意外と“炎症が生じるとなぜ痛みを伴うのか”ということを説明できる人って案外少ないのです。
そこでこの記事では…
- 炎症の症状を引き起こしている原因を理解できる
- 炎症によって痛みが生じるメカニズムを理解できる
この2つの部分を確実に抑えられるよう、炎症についてどの教科書や参考書よりもわかりやすく解説します。
この記事を読んだ後には、周りの友達に対し自信を持って「炎症によって痛みが起きる理由は◯◯だからだよ!」と詳しく説明できるようになっていると思います。
これから、炎症について勉強したいと考えている方はぜひ最後までご覧ください。
炎症によって痛みが発生するメカニズム
まずは『炎症』についておさらい
まずはサクッと炎症についておさらいをしていきます。
炎症とは、外傷等によって生体内で器質的な変化(侵襲など)が発生した際に、その“異常”を脳に教えるために生じる反応のことです。
この反応は、自分自身の身体を守るために起きることであることから、炎症そのものは私たちにとって必要な生体反応になります。
炎症によって生じる生体反応は主に以下の5徴候があります。
- 発赤
- 腫脹
- 発熱
- 疼痛
- 機能障害
今回は、このうち『機能障害』以外の部分がどのようなメカニズムで発生するのか?
それをみていこうと思います。
炎症による痛みのスタート地点は?
炎症により発生する痛みのメカニズムを理解するためには、順を追って解説していくのが一番理解しやすいと思いますので、まずは基本的なところから進めていきます。
というわけで、最初に押さえておきたいのが痛みが発生するスタート地点についてです。
まず基本的に炎症が生じると、その炎症が生じている患部には何かしら問題が生じているわけです。
となると、痛みの発生源も何かしらここにあるような気がしますが、この痛みが発生するスタート地点を生理学的に説明すると、「発痛物質が侵害受容器にタッチした瞬間である(下図)」と考えることができます。
侵害受容器…?発痛物質…?ナニソレ
急に専門用語が飛び込んできて、このように頭の中でハテナが浮かんでいる方もいるかもしれないので、次はこれらについて解説していきます。
侵害受容器と発痛物質の中身
侵害受容器と発痛物質、この2つの役割をすごく簡単に説明すると上図のようなバトンパスをしているような感じになります。
- 発痛物質:「痛み情報」を侵害受容器に届ける
- 侵害受容器:発痛物質から「痛み情報」を受け取る
では、「侵害受容器と発痛物質の中身には一体何があるのか?」ということですが、振り分けるとこうなります。(下図)
侵害受容器である自由神経終末に含まれる『高閾値機械受容器』や『ポリモーダル受容器』などについて知りたい方は、関連記事を書いているのでこちらをご覧ください。
さて、「炎症が生じると痛みが発生する。」
このメカニズムを説明するときキーワードになるのがこの中に書かれてある『ブラジキニン』です。
そしてもう一つ、この図にはありませんが大事な物質。それが『プロスタグランジン』です。
ブラジキニンとは
ブラジキニンとは、組織に損傷が生じると発生する物質であり痛みを誘発する発痛物質の一つです。
実は、炎症が生じた際に最も“痛み”に関連する物質がこのブラジキニンであると考えられています。
プロスタグランジンとは
プロスタグランジンも、ブラジキニン同様組織に損傷が生じた際に発生する物質ですが、この物質は主に『腫脹』や『発熱』という症状を引き起こします。
ここで大事なポイントとしては、このプロスタグランジン自体に発痛作用はそこまでないということです。つまり、この物質そのものが痛みを引き起こすわけではないのです。
プロスタグランジンの発痛作用は強くない
※ちなみに、炎症時に発生するブラジキニンやプロスタグランジンのような物質のことを『炎症メディエーター』といったりします。
さて、炎症に強く関与する『ブラジキニン』と『プロスタグランジン』について簡単に解説しましたが、ここからは実際にこれらの物質が炎症にどのように関わっているのかを解説します。
上記でも述べたように組織損傷が生じると『プロスタグランジン』が発生しますがこれ単体では痛みは生じません。
なぜならば、(繰り返しですが)これ自体に発痛作用があまりないからです。その代わり、プロスタグランジンの作用によって『発熱』と『腫脹』が生じることから、いわゆる炎症徴候にはこのプロスタグランジンが一役担っているわけです。
「じゃあ、炎症が生じたときの痛みは?」
という今回の1番のテーマですが、これは『ブラジキニン』が担っています。
そして、この話しには最大のポイントがありまして…それが、この2つの物質の関係性についてです。
ブラジキニン&プロスタグランジンによる炎症の増強
組織が損傷した際に発生する『ブラジキニン』と『プロスタグランジン』ですが、実はこの両者は相互に助け合う関係性にあるということが明らかになっています。
具体的にみていくと…
まず、プロスタグランジンに発痛作用はあまりないと言いましたが、この物質には隠れたもう一つの作用があります。
それが、「ブラジキニンの作用を増強させる」というものです。ブラジキニンは痛みを生み出す物質であるため、この作用が増強するということは要は痛みが強くなるわけですね。
同時に、ブラジキニンにも隠された作用があります。それが「プロスタグランジンを量産する」というものです。
そうすると…です。
もうお分かりでしょうか?
つまり、炎症というのは『ブラジキニン』と『プロスタグランジン』2つの物質が相互に作用することで成り立っているのです。
ちなみに、ブラジキニンが発生することによって痛みが生じるメカニズムですが、これに関してはブラジキニンが侵害受容器にタッチし、侵害受容ニューロンを経て大脳皮質(一次体性感覚野)に至ることで『痛み』を感じるわけです。
詳しくは、こちらの記事で解説しているのでご興味ある方はご覧ください。
今回の内容まとめ
では、最後にここまで話してきた内容をまとめます。
- 炎症には『ブラジキニン』と『プロスタグランジン』という物質が関与している
- プロスタグランジンに発痛作用はそこまでないが『発熱』と『腫脹』を生じさせる
- ブラジキニンは“痛み”を生み出す発痛物質である
- プロスタグランジンとブラジキニンは相互に作用することで炎症徴候を増強させる
いかがでしたでしょうか?
以上が、炎症によって痛みが発生するメカニズムです。
(痛みの発生メカニズムだけでなく、発熱や腫脹が生じる理由についてもこの記事で解説していきました。)
もし、今回の記事を読んで『痛みのメカニズム』にご興味持たれた方はこちらの記事も良ければご覧ください。
今回は、主に末梢組織での話しをしましたが、これらの記事では主に神経系の側面から痛みのメカニズムを解説しています。
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