膝内側側副靭帯損傷のリハビリにおける評価と治療のポイント

整形外科クリニックを始め多くの医療機関やスポーツ現場において、『靭帯損傷』を呈した患者様を担当する理学療法士の方は多いかと思います。

ただ、靭帯損傷と一言でいってもその中身は多様で足関節や膝関節など発症部位は多岐にわたります。

今回は、それら靭帯損傷の中でもスポーツ外傷全体の約7%を占めると言われている『膝内側側副靭帯損傷』に関して、評価方法やリハビリテーションを進めていく上で抑えておきたいポイントについて解説したいと思います。

是非、最後までご覧頂き明日の臨床に活かして頂けたらと思います。

目次

膝内側側副靭帯損傷のリハビリにおける評価と治療のポイント

膝内側側副靭帯損傷の原因

膝内側側副靭帯は大腿骨内側上果から脛骨近位内側にかけてやや前方に向かって走行していることから、膝関節の外反を制動する役割があります。

よって、この膝内側側副靭帯損傷の原因としては、ラグビーやスキーといったスポーツや交通事故など膝に大きな外反力が加わることで起こりやすいとされています。

膝関節の靭帯損傷の中で最も頻度が高いといわれている

靭帯損傷が発生した後に生じる疼痛の原因

靭帯損傷を呈した患者様のリハビリテーションを進めていく上で、よくぶつかる壁の一つが『疼痛』です。

で、この疼痛の問題を取り扱っていく際に考えておかなければならないこと。

それは、(膝内側側副靭帯損傷に限らず)靭帯が損傷した後に生じる疼痛というのは「負荷に耐えられる靭帯の強さそのものよりも靭帯にかかる負荷が大きくなることで生じやすい」という点に留意しておく必要があることです。

「負荷に耐えられる靭帯の強さ」を決定づける要因とは

負荷に耐えられる靭帯の強さは、『既往歴』や『睡眠の状態』、『年齢』、『心理的ストレス』によって左右されやすいとされています。

つまり、こういったファクトにネガティブな要素が加わると負荷に耐え難い靭帯になる可能性があるということです。

2020年にDuboisが軟部組織損傷・障害に対する方針として「PEACE and LOVE」を提唱しました。

その中では患部の炎症症状を抑えるという観点以外にも「悲観的にならないこと」、そして『患者教育』といった患者様の心理的要因に対する介入の必要性も含まれています。

急性期の基本方針(PEACE)

  • 患部保護(Protection)
  • 挙上(Elevation)
  • 炎症を抑える(Avoid anti-inflammatories)
  • 圧迫(Compression)
  • 患者教育(Education)

亜急性期以降の基本方針(LOVE)

  • 力学的負荷(load)
  • 悲観的にならない(optimism)
  • 血行改善(vascularization)
  • エクササイズ(exercise)

「靭帯にかかる負荷が大きくなる」状態とは

靭帯にかかる負荷の大小には、力学的負荷が関与すると言われてます。

靭帯には負担がかかりやすい動き(ストレス)があるのですが、そのストレスが大きくなると症状が悪化してしまうということに繋がりかねません。

急性期~亜急性期は損傷している靭帯を安静にして負荷を減らすことも大事ですが、一方相反するように聞こえるかもしれませんが、患部の状態に合わせて適切な負荷を加えていくこともまた重要になります。

それが、結果的に負荷へ耐えられる靭帯の強さにも繋がってきます。

適切な負荷に設定したエクササイズは、単なる関節可動域制限や筋力低下といった機能障害改善のための手段ではなく、患部組織の治癒や適応、強化を促進できる方法なのである。

著 軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション組織特性に基づくアプローチ法の構築.熊井司,片寄正樹 2021

ここまでをまとめると…

  • 心理的ストレスや既往歴などにより「負荷に耐えられる靭帯の強度」が減弱したり、力学的負荷が大きくなると「靭帯にかかる負荷そのものが大きくなる」ため靭帯損傷が起こりやすい。
  • 靭帯損傷後は靭帯の強度そのものを強くしていくことと力学的負荷を減らす観点が必要である。

靭帯を強くする方法として

急性期~亜急性期では炎症を抑えることや心理的ストレスを減らすことが大事

力学的負荷を減らす工夫として

時期によっては安静にしたり、負担がかかりやすい動き(ストレス)は避けることが大事。

次は、膝内側側副靭帯損傷後に実施すべき評価と治療について解説していきます。

膝内側側副靭帯損傷の評価と治療

膝内側側副靭帯損傷における4つの評価方法

はじめに、損傷した膝内側側副靱帯に対する評価方法を解説していきます。

①炎症の有無

急性期の場合には熱感や腫脹が出現しやすいため、触診や周径をこまめに測定し炎症状態の確認を行いましょう。

また、炎症が軽減することは運動負荷を上げていく上での基準の一つとなります。

②疼痛検査

  1. 圧痛所見:患部や患部周囲の回復過程を把握するために有効。
  2. 膝外反ストレステスト:靭帯損傷の多くは伸張ストレスによって出現しやすいことを踏まえると、膝外反方向へ伸張させることで疼痛を誘発させます。治癒が進んでくると伸張しても疼痛が出現しにくくなるため、靭帯損傷の回復の目安としても有効。

③アライメント

②と重複する点もありますが、膝が外反することで疼痛が出現しやすい場合にはそれを避けるためにアライメント修正を行います。

例えばスクワット動作で膝内側側副靱帯部分に疼痛が出現するのであれば、扁平足(足部回内・外転位)の有無や股関節外転制限の要素を減らしてみて疼痛が変化するのであれば上記部分が問題であると推測できます。

④心理的因子

前述しているように心理的因子が靭帯損傷の予後に与える影響も大きいです。

スポーツ復帰に対する心理的準備や再損傷への恐怖感は質問紙によって評価できる。ACL再建術後のスポーツ復帰や再損傷にはこれらの心理的要因が有意に関与する。

著 軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション組織特性に基づくアプローチ法の構築.熊井司,片寄正樹 2021より引用

急性痛は感覚的側面が色濃い痛みではあるが、この時期に不安や抑うつといった情動的側面や破局的思考といった認知的側面に問題を抱えた患者は、痛みの訴えが強いだけでなく慢性疼痛に発展しやすい

著 ペインリハビリテーション入門.沖田実,松原貴子 2019より引用

以上のような理由から、患部の炎症や痛みだけではなく情動・認知的側面に対してもできる限り早期から対応することが望ましいです。

膝内側側副靭帯損傷の治療のポイント

膝内側側副靭帯損傷の治療を進めていく上で絶対に外せないのが『運動療法』です。

しかし、運動療法を実施していくにあたってはして運動負荷に注意が必要です。

先ほども軽くお伝えしましたが、靭帯を強くしていくために適度な運動負荷が効果的です。

しかし、適度な運動負荷の目安というのは実は分かっていません。

そこで、以下に靭帯損傷を病期毎に分け治療プロトコルを示した図を添付しています。

ぜひ、これをヒントにしながら運動負荷を設定して頂けると良いかと思います。

スクロールできます
患部患部外動作患者教育
ステージ1
急性期
冷却・挙上
圧迫・関節アライメント修正
疼痛がない範囲での(等尺性)筋力強化
ROM-ex
積極的な患部外の筋力強化部分荷重
歩行(杖)
冷却、挙上、圧迫の徹底
不良姿勢、運動の指導
装具装着の指導
完全安静の回避
ステージ2
亜急性期
上記継続
低負荷運動(自転車、荷重位ex)
バランストレーニング
上記継続全荷重
階段昇降
冷却、挙上、圧迫の徹底
装具装着の指導
ステージ3
回復期
最終可動域までのROM運動
運動療法(筋力強化、自転車、荷重ex)
バランストレーニング
患部外と患部の協調exスポーツ基本動作
・ジョギング
・ジャンプ
運動時の装具装着の指導
ステージ4
強化期
積極的な筋力強化
危険動作制御の練習
プライオメトリックやアジリティトレーニング
スポーツ特異的動作
・側方動作
・非予測的動作
・接触プレー
必要に応じた装具・テーピングの使用
軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション組織特性に基づくアプローチ法の構築.熊井司,片寄正樹 2021より引用

内側側副靱帯損傷のリハビリまとめ

それでは、本日お伝えしたポイントをまとめます。

ここがポイント!
  • 靭帯の強さに対して力学的負荷が大きくなると組織損傷・障害が起こりやすい
  • 基本方針としては「靭帯を強くしていくこと」と「力学的負荷を減らすこと」を並行して進める
  • 靭帯損傷の評価は①炎症の有無②疼痛検査③アライメント④心理的因子の視点が必要である
  • 靭帯強化のために時期に合わせて適度な運動負荷で運動を行うことが効果的である

参考文献

1)軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション組織特性に基づくアプローチ法の構築.熊井司,片寄正樹 2021

2)ペインリハビリテーション入門.沖田実,松原貴子 2019

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