【痛みの理学療法】認知的側面から考える「痛み」のリハビリテーション
視覚と体性感覚の不一致による痛みの惹起
【McCabeによる研究】
視覚と運動感覚の不一致が起こると約半数の被験者で不快情動が起こり、約15%の被験者には「痛み」が出現した。
同じくMcCabeの研究にて、今度は線維筋痛症の患者を対象に上記の視覚と体性感覚の不一致を促すような課題行った実験では、健常者よりも高い割合で異常知覚を惹起した。
この問いに対する答えの一つは前帯状回と言われる脳部位です。
痛みの主観的強度と強く関係している前帯状回は
“感覚情報の不一致に強く活性化する役割を持っています”
感覚情報の不一致が起こるとこれは活性化し、この活性化というのが痛みを増強させているのではないかと現在考えられています。
そしてこの視覚と体性感覚の不一致は “neglect like syndrome” を引き起こす可能性があります。
認知的側面からくる疼痛のリハビリテーションを考えていく上では、この視覚と体性感覚の一致性を図る。
つまり、様々な感覚の統合を図る手続きが必要になります。
感覚の統合とは?
視覚と体性感覚の統合処理というのは一体どこで行われるか。それが頭頂葉です。
さらに、頭頂葉の中でも特に『下部頭頂小葉』と言われる部分がもっぱらこの機能を担っており、視覚や体性感覚といった『異なる』感覚情報の統合を行う機能を異種感覚統合といいます。
頭頂葉は前頭葉との関連が強くこれを『前頭-頭頂ネットワーク』と言いますが、下部頭頂小葉に機能不全が生じると、結果関連が強い前頭葉の機能不全が生じてしまいます。
つまり今回でいう、前帯状回の機能不全にまで至るといったことが生じます。
「認知的側面」による疼痛の評価
1.身体描画法
“「下部頭頂小葉」の機能としては異種感覚の統合である。”
と先ほど述べましたが、それともう一つ実はあり、異種感覚統合を統合した結果、『身体図式』や『身体イメージ』を構築するというのが下部頭頂小葉の最大の特徴となっています。
そのため、下部頭頂小葉の機能不全が生じると自分の身体を実際の身体よりも大きく感じたりといった現象が生じます。
※“実際にCRPSの患者様は主観的に自分の身体を大きく感じ、その大きく感じている期間は罹患期間と相関がある。”とされています。
ですので、neglect like syndromeが疑われる患者様に対しては“自分の身体の絵を書いてもらう”というのは一つの評価として有効ではないかと思います。
2.二点識別覚
慢性疼痛患者の二点識別覚距離は身体イメージが低下している部位で大きくなる。
ということが分かっており、またその身体イメージの低下部位と痛みの分布は関連することが明らかになっています。
つまり、疼痛患者様の二点識別覚距離を測ることで健常人との正常知覚距離に比べてどうなっているかを知るツールになります。
もし現在痛みに難渋するケースの患者様がいらっしゃれば是非一度試してみてはいかがでしょうか。
3.運動イメージ
運動イメージというのは、「運動の実行を伴わない脳内運動指令の惹起」です。
どういうことかというと、本来運動イメージと運動実行時の脳活動というのは等価であることが様々な研究により分かっています。
➡しかし、CRPS患者においてはこの運動イメージと運動実行時の脳活動に解離(不一致)が多くみられます。この場合、大きく二つのパターンが考えられます。
「脳内では正常な運動をイメージ出来ているにも関わらず実際の運動が伴なわない」
「そもそも患側の運動イメージが出来ない」
前者は主に片麻痺患者様に多くみられる現象で、僕も臨床でよく見かけます。
つまり、健常だった際の自分の運動を覚えているために、発症直後は麻痺している手足が思うように動いてくれないことからイメージと運動とに不一致が生じ徐々に痛みや異常感覚に繋がっていきます。
後者は主に術後の固定が外れた患者様で多くみられる現象です。
長期間固定していたために、その固定部位の運動を意図する機会がないために脳内運動野が縮小し運動イメージそのものが生じにくくなることが考えられます。
そのため、意図しないままに患側をセラピストが動かしたり、無理やり自動運動を要求することでイメージと運動とに不一致が生じ痛みが残ってしまう。といったような現象が生じます。
まとめ
このように脳から生じる痛みの問題は前頭前野や大脳辺縁系が責任病巣である「情動的側面」、頭頂葉-前頭葉の機能不全である「認知的側面」などがあります。
「痛み」という一つの概念を末梢組織の治療に加え、これら脳科学の分野もこれから考えていかなければならないかと思います。
なお、「痛み」に関して勉強されたい方はこちらの書籍がおすすめです!
ぜひ一度読んでみてください(^▽^)
最後に
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