理学療法士や作業療法士の方であれば、その多くの人が術後のリハビリテーションに関わるのではないかと思います。
そのなかで、1つテーマになってくるのが【痛みの管理】ではないでしょうか?
痛みの管理に関しては、術度であれば必ずぶつかる問題の一つである上、難渋するケースもあることから悩んだ経験がある人もいるのではないかと思います。
そこで今回は、この【術後に生じる痛み】について、痛みの種類やメカニズム、そして予防と治療という観点からお話ししていこうと思います。
術後に残存する痛み~術後遷延痛とリハビリテーション~
まず、術後に生じる疼痛には大きく2種類存在しており、それが『術後急性痛』と『術後遷延痛』です。
両者は発生機序が大きく異なっていることから、区別して考える必要があります。
術後遷延痛とは何か
基本的に手術では皮膚や筋肉をメスで切開するため、術後には必ず炎症による痛みが生じますが、いわゆるこれが”術後急性痛”です。
この急性痛の時期は炎症などの影響で自発痛や、痛みに対して受容器が過敏に反応する痛覚過敏が生じたりします。
しかし、通常これらの反応による痛みというのは自然に軽快していくのが一般的なパターンですが、稀にこの時の痛みが長時間続くことがあります。
これが、”術後遷延痛”といわれるものです。
僕自身、現在臨床を行っていく中で比較的この術後遷延痛が存在してる方を多く担当することがあり、治療に難渋することがよくあります。
術後遷延痛の定義
術後遷延痛の定義は、IASPが以下のように示しています。
- 外科的操作後に出現する。
- 術後少なくとも2カ月以上持続する。
- 腫瘍の残存、慢性感染など、他の原因による痛みを除外する。
- 術前から存在した痛みを精査のうえで除外する。
(Macrae&Davies,IASP Press,1999)
術後遷延痛の病態とリスクファクター
術後遷延痛が生じ得るリスクファクターは大きく手術要因と患者要因に分けられると考えられています。
手術要因というのは、ざっくりいうと”診断ミス”や”手術ミス”といったものが主として挙げられます。(めちゃめちゃざっくりです)
一方で、患者要因には何があるのかというと、精神心理状態の観点から見た場合には、『破局化(破局的思考)があるか否か』が重要とされています。(飯田.2014)
つまり「術前に強い不安がある」もしくは「術後に生じる痛みに対して強く固執している」というような状態だと、術後遷延痛が発生しやすい状況といえます。
なお、この術後遷延痛は高齢者ほど少なく、男性よりも女性の方が発生率が高いことが分かっています。(飯田.2014)
術後遷延痛に対するセラピストの役割
術後遷延痛に対してセラピストはどのように対応すれば良いのか。
術後遷延痛は先ほども述べたように、主に診断や手術そのものに原因がある場合と、患者本人に原因がある場合が考えられますが、前者のように手術そのものに遷延痛の原因がある場合は正直セラピストにはどうしようもありません。
となると、私たちが直接的に術後遷延痛を予防もしくは改善に携われる守備範囲としては、もう1つの側面である患者自身が抱えている問題になりそうです。
具体的には、術前の強い不安は遷延痛のリスクファクターになるため、その観点からいうとセラピストの役割としては、術前に患者教育を行い破局化(破局的思考)を防ぐというのは1つ重要な責任ではないかと思っています。
加えて、術後の評価には身体機能(筋力、ROM、歩行など)に関する評価に加え、術後急性痛に対する精神心理的側面の評価も十分に行なっていく必要があります。
なぜならば身体機能が向上しても痛みが改善せず、むしろ破局的思考が増大するといった事例も現に存在するからです。
※ちなみにその事例というのが、こちらのシングルケースです。
理学療法によって機能障害は改善したものの、破局的思考が増悪した人工膝関節後遷延痛症例.橋崎ら,2017
破局的思考が増大するということは、患者自身のQOLはぐっと低下することは容易に想像出来ると思います。
この破局的思考によって痛みの悪循環が生じないようにするために、私たちセラピストの関わり方は非常に重要になってくるのではないかと思います。
患者教育により術後遷延痛を予防する
では、具体的に術前と術後にどのように痛みの管理を行っていくのか。これを、実践に落とし込んでいるのが作業療法士の平賀勇貴先生です。
平賀先生は2018年に日本作業療法士協会にて最優秀論文賞を受賞されており、精神心理的な観点から痛みに対するリハビリテーションについての論文を多数執筆されています。
特に、こちらの論文はTKA患者を対象とした患者教育の実践に関する論文です。
人工膝関節置換術後患者のビデオによる術前、術後教育は破局的思考を軽減させる.平賀,2015
手術を実施する前に、術後のリハビリテーションや痛みに関する説明をビデオを用いながら、教育を行うことによって破局的思考を予防・改善することができ、結果的に術後遷延痛を防ぐことが可能になります。
つまり、私たちセラピストの1つの関わり方として手術を予定している患者様に対しては、術前に身体機能に関する側面に加え患者教育といった側面からも介入が必要になってくるのではないかと思います。
術後遷延痛のまとめ
それでは、ここまで解説してきた術後遷延痛に関してポイントをまとめていきたいと思います。
- 術後には、術後急性痛と術後遷延痛があり遷延痛が生じると痛みが慢性化してしまいやっかいなことになる。
- 術後遷延痛の発生要因は手術そのものか患者様自身という2つの因子に大きく分けられる。
- 遷延痛患者に対し、セラピストは患者自身が抱えている問題(精神心理的側面)に対して介入手段が存在する。
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