【論文解説】慢性疼痛に対する運動療法の効果や評価まとめ

有酸素運動を行う女性

皆さんは、慢性疼痛患者様のリハビリテーションを進めていく際に、運動療法についてどのようにお考えでしょうか?

中には、「徒手療法こそ至高!」だったり、「物理療法でサクッと解決!」と、それぞれの手法を重要視している方もいらっしゃると思います。(物言いは別として)

僕は個人的に、運動療法には大賛成派でして、理由としては「運動することで痛みが改善する神経生理学的な要因ってあるよね」という部分で、ここの理論的背景や実際のエビデンスを加味しても、慢性疼痛に対する運動療法の重要性ってめちゃめちゃ高いんじゃないかと思ってます。

#結論「全部大切なんですけどね」

というわけで、本日なんですが…

今回は、きんたろーが選ぶ、「慢性疼痛に対する運動療法の全貌を掴むんだったらこの論文いいよね!」という論文を紹介したいと思います。

というのも、「慢性疼痛に対して運動療法が重要だというのはなんとなく分かるけど、案外その裏付けはふわっとしてるかも。」という方が少なからずいらっしゃるんじゃないかと思うからです。

そこで今回は、僕がおすすめする慢性疼痛と運動療法の関係を示した論文をシェアしていきます。

この記事では、あくまでも僕が大事だと思った点を切り取って解説していますが、人によって大事だと思う部分は異なると思いますので、ご興味ある方はぜひ原著をしっかり読んで頂ければ嬉しいです。

それでは、はじめていきましょう!

目次

【論文解説】慢性疼痛に対する運動療法の効果や評価まとめ

運動療法が慢性疼痛に対してどのような効果を及ぼすか

はじめに、今回参考にさせていただいた論文はこちらです。

参考文献

Exercise therapy for chronic pain.Kroll HR,2015

早速ですが、まず痛みに対する運動療法の効果を示した知見を一つ例に出すと…

Ellingsonらは、健康な女性を対象に『身体活動のレベル』と『熱痛刺激の平均強度や不快感』との関係を評価しました。

その結果、身体活動に関する推奨事項(中強度の有酸素運動を週150分以上、または活発な有酸素運動を週75分以上)を満たしている参加者は、この活動レベルを満たしていない参加者に比べて、不快な熱刺激に対する痛みの強さの評価と不快度が有意に低いことを発見しています。

これまでのレビューから、慢性疼痛の患者さんのアウトカムは、運動をする方がしない方より良いことは明らかです。運動療法の具体的な内容は 、運動の処方や指導の方法、環境によるサポートもより重要である可能性が高いのです。患者さんに運動をしてもらうことができれば最終的には回復に向かいます 。(Kroll HR,2015)

一般的に、運動療法(特に有酸素運動)が痛みを軽減させるというシステマティック・レビューは数多く挙がっており、この有酸素運動による疼痛抑制効果はEIH(exercise-induced hypoalgesia)と呼ばれています。

EIH出現には、60%HRR(heart rate reserve)の高強度、且つ、30分~2時間の長時間の運動が好ましいとされていました。しかし最新の研究では、例えば20分ほどのウォーキングといった、低負荷・短時間の運動でもEIHが生じることが分かっています。さらに、普段から運動習慣のある人は、EIHが生じやすいことも分かりました。

牛田健太 「慢性疼痛と運動療法」より引用

EIHの作用機序ですが、私たち動物には元々内因性オピオイドという物質が生体内に存在しています。

で、この内因性オピオイドは快情動を得た時などに放出されるのですが、この物質が脊髄後角にて痛みの伝導路が脳に上行するのをシャットアウトすることによって、鎮痛効果を発揮すると考えられています。

Chenら7は、皮膚・筋の切開による術後急性疼痛のラットを用いて研究を行った。彼らは、週5日のトレッドミルランニングを4週間続け、痛み行動の状態、後根神経節におけるサブスタンスPとサイトカインの影響を調べた。その結果、トレッドミルランニングによって疼痛の機械的過敏性が緩和され、後根神経節における過剰なサブスタンスP含む炎症性サイトカインの抑制に関連することが示された。(Kroll HR,2015)

サブスタンスPとサイトカインは疼痛誘発物質

Naugleら20 は、有酸素運動による痛覚抑制の強度閾値を明らかにすることを目的とした。彼らは、健康な若い男女を対象に、適度な運動(心拍予備能50%)と激しい運動(心拍予備能70%)が、痛みの調節に及ぼす直接的な影響について研究した。適度な運動と活発な運動は、いずれも熱刺激に対する痛みの強さの低減と関連しており、活発な運動後に痛みの強さがより低減する用量反応効果が見られた。また、活発な運動においては圧痛閾値の上昇をもたらした。

↑この研究においては、高負荷のトレーニングの方が鎮痛効果が高いということが示唆されそうですね。

慢性疼痛に対して運動療法を行う際の阻害因子

一方で、痛みを抱えている方に対して運動療法を実行する際には、いくつか乗り越えなければならないハードルというのも存在します。

代表的なもので言えば、運動に対する『恐怖心』や『不安』、『破局的思考』といった患者側が抱える痛みに対しての情動・認知的側面の関与です。

運動に対する恐怖心や不安というのは、運動療法を進めていく上で重要な阻害因子になることが多く、これにより不活動を招いてしまうというケースがよくあります。

慢性的な痛みを持つ患者は、しばしば恐怖回避行動を起こし、運動プログラムに参加することに抵抗感を示すことがある。慢性疼痛患者に適切な運動プログラムを処方するには、患者の生物心理社会的状況を理解し、さまざまな運動テクニックを駆使し、治療チームと患者双方が密にコミュニケーションをとることが必要です。(Kroll HR,2015)

運動は、関節炎、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、慢性頚部痛、慢性腰痛など様々な慢性疼痛の診断を受けている患者にとって有益であることが分かっている。ただし、どのような診断であっても患者の評価には、生物心理社会的な状況の評価が含まれていなければならない。身体的な検査だけでは十分な情報を得ることはできません。患者の心理状態や痛み、健康状態、社会的背景に関する信念を理解することが必要である。(Kroll HR,2015)

これらを踏まえて、慢性疼痛患者様に対して運動療法を実行するには大きく3つの壁があるとされています。

それが、①患者要因、②環境要因、③医療提供要因です。それでは、次にこれらを一つずつ見ていきます。

運動療法の阻害因子
  1. 患者要因
  2. 環境要因
  3. 医療提供要因

患者要因による運動療法の壁

これに関しては、先ほど述べてきた通りです。

一度、患部を様々な外傷等によって痛みを伴う経験をすると、どうしても同部位を動かしたり、運動を行うことに対してネガティブな情動が伴いやすいです。

また、患者様自身が「痛みは医療者が治してくれるものである」というある種信念に近いものを抱いていると、リハビリテーションが全て受動的となり、運動療法の実行を妨げる可能性があります。

患者側に存在する障壁には、『痛み』、『恐怖心』、『恐怖心からくる回避行動』、『過度の脱力感』、『運動の利点に関する教育や理解の欠如』、『痛みの神経生理学や中枢性感作に関する教育や理解の欠如』、『運動は有害であるという強い信念』、『うつ傾向』、『内因性疼痛調節機能(下降性疼痛抑制系)の機能不全』、『自己効力感の低下』が含まれる。(Kroll HR,2015)

環境要因

環境要因がトリガーとなって、運動療法の実施が困難なケース。

多いものとしては、「運動療法を行える場所がない」というものや「運動を行う時間がない」「通える範囲に運動療法を適切に行える医療機関がない」などが挙げられます。

「運動を行う場所や時間がない」という点に補足すると、これは職場や家族からのサポートというのも重要になってきます。

慢性的な痛みは抱えているものの、朝から夕方まで働いており、その後病院に行こうにももう疲れ切って運動どころではない。というケースはリアルだとよく生じうる問題ではないかと思います。

医療提供要因

医療提供要因とは、要するに医者やリハビリテーションセラピストが患者様に対してきちんと運動療法の必要性を説明し、実行フェーズに移せるかという側面です。

痛みの生物医学的モデルが過度に重視され、痛みに対する心理的・中枢神経系への配慮が欠けていること、運動を処方する医師と処方を行う療法士との間の連携不足、運動の価値と重要性に関する医療提供者と患者間のコミュニケーション不足、痛み の意味に関する患者の教育不足、患者が安心して運動できパフォーマンス上達に必要な戦略を理解するための十分な教育の欠如などがあげられる。(Kroll HR,2015)

適切に運動を処方する際には、これら3つ障壁(患者要因・環境要因・医療提供要因)を認識したうえで対処する必要があります。慢性疼痛患者への運動処方は、『機能的な生体力学的問題』、『認知・行動的問題』、『内因性疼痛調節システムの機能』に注意を払う必要があり、その点を網羅的に鑑みることで成功させることができます。(Kroll HR,2015)

慢性疼痛患者における評価の視点

慢性疼痛患者様のリハビリテーションを展開していく上で、評価は欠かせません。

この評価というのは具体的にいうと、痛みの『感覚的側面』・『情動的側面』・『認知的側面』、これらを丁寧に紐解き全体像を把握することです。

筋骨格系に関する種々の問題などは、感覚的側面に入ってくるのでいわゆる生物学的側面とも言えるかと思います。

患者の評価では、柔軟性の欠如、筋力の欠如、持久力の欠如、バランスと運動制御の問題など、対処すべき特定の生体力学的な欠陥があるかどうかを確認する必要があります。この評価により、 医療提供者は、これらの欠損の修正に有効な特定の運動(例えば、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチ、バランス、運動制御)の種類を特定することができます。(Kroll HR,2015)

また、このような筋骨格系の問題に加えて重要なのが痛みに対する情動や認知的側面です。

繰り返しですが、運動を行うことや痛みに対する強い不安や破局的な思考というのは痛みを慢性化させる大きな要因になります。

また、先ほどの『患者要因』の部分でも伝えましたが、患者様自身も過去の経験やメディアの影響、医療者の言葉などにより『痛みの捉え方』についてある種の信念を持っていることがあります。

患者側が持つ痛みに対する信念

  • 医者が背骨が曲がっていると言ったから腰が痛いんだ。
  • 姿勢が悪いから痛くなるんだ。
  • サプリメントAを飲めば痛みが治る。
  • マッサージをして貰えば治る。など

こうした、信念というのは痛みを慢性化に導いたり誤った治療手段を選択する可能性がとても高いので、医療者はこうした患者様が抱える思考自体を教育していくスキルが求められます。

医療者は、患者が痛みに対して抱く信念なども理解・確認する必要があります。慢性疼痛患者の多くは、『自分の身体に特定の問題があり、それが侵害受容刺激となって痛みを引き起こしている』といまだに信じている。

何かが痛みを引き起こすのであれば、それは危険なものであると考えるのが一般的である。このような思い込みを変えない限り、患者さんが運動プログラムに根気よく取り組む可能性は低いでしょう。(Kroll HR,2015)

近年は、痛みを伴っている患者様に実施する患者教育の方法として『疼痛神経科学的教育:Pain Neuroscience Education (PNE)』というのが痛みのリハビリテーション分野では有名になってきています。

この方法は、神経生理学的に痛みのメカニズムを医療者はもちろん、患者様にもそれを教育することによって痛みに対する誤った認識を変えていくことを目的とする方法です。

疼痛神経科学的教育は 、患者の信念を変え、運動への参加を容易にする効果があることを示した戦略である。Louwらは、慢性筋骨格系疼痛患者に対する神経科学教育の効果に関する8つの研究を2011年にまとめたシステミックレビューで、「疼痛の神経生理学および神経生物学に対処する教育戦略は、疼痛、障害、身体能力にプラスの効果をもた らすことができるという有力な証拠がある」ことを発見しました。(Kroll HR,2015)

慢性疼痛に対する運動療法まとめ

さて、今回は以上となります。以下は本日のハイライトです。

本日のまとめ
  • 慢性疼痛に対して運動療法が効果的であるという背景には『EIH(exercise-induced hypoalgesia)』という機序が働いている。
  • 慢性疼痛患者様に対して運動療法を実施するのは好ましい一方、円滑に行えない場合があり、それには大きく3つの阻害因子(患者要因・環境要因・医療提供要因)が存在する。
  • 運動療法を円滑に行っていくためにも、まずは『疼痛神経科学的教育:Pain Neuroscience Education (PNE)』を行い、痛みに対して正しく理解し、運動恐怖感や不安といった情動・認知的側面の是正が必要になってくる。
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