【評価用紙あり】不安と抑うつを評価するHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)と慢性疼痛との関連性

リハビリテーションの現場において、不安を抱いていたり抑うつ傾向にある患者様というのは一定数いらっしゃいます。

で、この不安や抑うつという症状の対応といったら『精神科』のイメージがパッと思い浮かぶかもしれませんが、実際こうした状態になっている患者様はどの領域(整形外科分野、中枢疾患分野など)にもいます。

特に近年は、不安や抑うつが「痛み」を難渋化させるリスク因子として挙げられていることから、痛みに関わる理学療法士や作業療法士の皆さんは「畑違いだから…」と敬遠せずしっかり押さえておかなければなりません。

なぜならば、患者様の大半は何らかの痛みを抱えていることが大半だからです。だからこそ…

  • 不安や抑うつが痛みとどのような関連性があるのか?
  • 不安や抑うつを評価する方法があるのか?

この辺りをしっかり知っておく必要があります。

そこで今回は①不安や抑うつと痛みの関係の解説、②不安や抑うつの評価を行うことが可能なHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)という評価スケールの紹介

この2本立ててお送りしていきたいと思います。

HADSの評価用紙もダウンロードできますので、ぜひ明日からの臨床にお役立てください。

目次

【評価用紙あり】不安と抑うつを評価するHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)と慢性疼痛との関連性

不安・抑うつと痛みの関係

卵か先か鶏が先か問題

不安や抑うつといった精神-心理的な状態と痛みとの相関はとても強いとされており、互いに影響し合っていることが示唆されています。

で、ここで重要なのは『発生』という観点で捉えた場合、どちらが先かはわからないという点です。

要は、不安やうつ傾向が強いから痛みが発生するのか、痛みがあるから不安やうつ傾向が発生するのか、これに関して明確な一方向の因果関係での説明はできません。

どちらかといえば『相関関係』による紐付きの方が強いとされています。

例えば、うつ病の患者の多く(約60%)は、痛みを感じていることが多いというのが分かっていますし、逆に慢性的な痛みを抱えている人の30%〜50%の人がうつ病を持っているという報告もあったりします。(Agüera-Ortiz L,2011.Dersh J, Polatin PB,2002.McWilliams LA,2003)

長期にわたる慢性的な痛みは、うつ病の発生率を2倍にするとも言われている。

https://www.practicalpainmanagement.com/treatments/chronic-pain-depression-sorting-out-types-mood-disordersより引用
上図の解説
  1. 痛みのみ患っている人の割合:54%
  2. 痛みと不安・抑うつ状態を伴っている人の割合:23%
  3. 痛みとうつ状態を患っている人の割合:20%
  4. 痛みと不安状態を患っている人の割合:3%

また、別の研究を見ても同様で2014年にAnnagürらは「慢性疼痛患者における精神疾患と睡眠の質およびQOLとの関連」というテーマで、慢性疼痛と不安・抑うつの有病率を調査していますがその結果…

慢性疼痛を患っている人は、健常な人に比べてうつ病もしくは不安障害を抱えている人が圧倒的に多いことが明らかになっています。

Psychiatric Disorders and Association with Quality of Sleep and Quality of Life in Patients with Chronic Pain: A SCID-Based Study.
上図の解説
  1. うつ病の有病率
    慢性疼痛グループ:49.1%
    対照グループ:5.6%
  2. 不安症の有病率
    慢性疼痛グループ:33.3%
    対照グループ:9.3%

このように、不安や抑うつをはじめとする精神-心理状態と痛みの関連性は密接に関連しており、痛みのリハビリテーションを進めていくためには筋骨格系のみの推論に振り切らず、対象者自身(情動・認知的側面)はもちろんその方の背景因子(社会的側面)も含めた視点が必要になってきます。

ペインリハビリテーションは総合格闘技

不安や抑うつ状態は痛みを拗らせる

先ほど述べたように、『発生』という観点で見れば鶏が先か卵か先か問題になってしまいますが、「痛みの増悪」という観点で見ると、不安や抑うつはそのリスク因子になります。

これは、痛みの慢性化を説明する際によく用いられる『痛みの恐怖回避モデル』を使って説明していきます。

簡単に説明すると、まず外傷等で何かしら組織損傷が起きた場合それに応じて「痛み」が発生します。

この時点では、侵害刺激による痛みなので『侵害受容性疼痛』の要素が強いですが、痛みを感じた後人によってその時の受け取り方が2つのパターンに分かれます。

一つは、痛みに対して不安や恐怖心を抱かない状態。

そのうち引いていくだろう

休養期間と思ってじっくり治そう

このように、良い意味で「あっけらかんとしている」というか、痛みに対して過度に恐れや不安を抱かなければ基本的に患部の自然回復と共に痛みも鎮静化することが多いです。

しかし一方で、痛みを過度に、ネガティブな解釈をしてしまうケースというのもあります。

例えば、「この痛みは何か体の中で恐ろしいことが起きている前触れなのかも…」だったり、「痛みがあるから何もできない…」というように、一言で言うと思考が痛みで支配されている状態です。

これを破局的思考というのですが、痛みを過度に恐れ不適切な認知をしてしまうとその先に「痛いから動かないようにしよう」といった形で行動にもそれが現れてきます。

その結果、学習性の不使用が加速し痛みが慢性化してしまうことにつながりやすくなります。

加えて、痛みに対するネガティブな認知は不安や抑うつ状態も招きやすくなり、これも痛みの慢性化を加速させてしまうのです。

事実、慢性疼痛患者の中にはロキソニンをはじめとする鎮痛薬が効かない一方、抗うつ薬を処方されると痛みも緩和するという報告があります。

これは、不安や抑うつといった精神-心理状態が痛みを増悪させていることを示しており、その背景となるメカニズムが下降性疼痛抑制系の機能低下です。

下降性疼痛抑制系の機能低下とは、簡単にいうと痛みに対する閾値が低下し「痛みを感じやすい身体」になってしまうということです。

不安や抑うつというのは、下降性疼痛抑制系における中枢機関の一つである前頭葉の機能を著しく低下させてしまうためこのようなことが生じます。

つまり、不安や抑うつというのはそれ自体が痛みの慢性化を加速させるリスクファクターになり得るわけです。

故に、繰り返しですが理学療法士の方であったとしても「痛みを改善することが目的」なのであればこの辺りもしっかり見ていけるスキルが必要なんです。

作業療法士の方と一緒に担当しているのであればお互いの強みを活かし分業で対応するのがオススメ

では、具体的に不安や抑うつといった症状をどのように評価していけば良いのか?

最後に、実際の評価方法について解説していきます。

Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)

不安や抑うつの状態を評価するツールに、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)があります。

HADSは、対象患者様の心理状態を評価するもので不安に関する尺度(HADS-A)7項目抑うつに関する尺度(HADS-D)7項目、全14項目から構成される質問紙法です。

回答者は各項目を0〜3点の4段階で評価します。(評価用紙は説明の最後に添付)

HADS-AとHADS-Dそれぞれ合計点数は21点で、点数が高いほど不安や抑うつ傾向が強いことを示します。

HADS-Aの『A』とは、Anxiety(不安)の頭文字。HADS-Dの『D』はDepression(抑うつ)の頭文字になっている。

ちなみに質問内容全14項目のうち、奇数番号がHADS-A、偶数番号がHADS-Dとなっています。

このようにHADSは、一枚の評価用紙で不安と抑うつという2つの側面が評価できるわけですが、そうするとスコアのつけ方がやや複雑になるんです。

具体的には以下のようなスコアリングの付け方になります。

HADSのスコアリング
  1. 質問番号1, 3, 5, 6, 8, 10, 11, 13は回答番号の上から順に3, 2, 1, 0点とする
  2. 質問番号2, 4, 7, 9, 12, 14は回答番号の上から順に0, 1, 2, 3点とする

なお、合計点数の解釈は以下になります。

点数内訳
  • 0~7点:negative(不安または抑うつなし)
  • 8~10点:doubtful(疑いあり)
  • 11~21点:definite(確定)

おおよそ、「8点より上か下か」このあたりをボーダーラインにして評価すると良いかもしれません。

HADSのエビデンス

HADSに関するエビデンスは多数知見が挙がっているので、いくつかご紹介します。

この研究では、慢性疼痛患者様を対象に痛みがQOLや気分障害、睡眠の状態などにどのような影響を及ぼしているかを調べた研究です。

この時、不安・抑うつの評価としてHADSが採用されていますが、結果分かったことは慢性疼痛を有する人はHADSの点数が高い傾向にあることが明らかになっています。

この研究では、慢性疼痛患者43名に対し認知行動療法を行い、介入前と一年後でHADSの得点がどのように変化しているかを調べた研究です。

結果、介入前は不安・抑うつの尺度がどちらもdoubtful(疑いあり)を超えていましたが、認知行動療法を実施した一年後には両者とも有意に減少していたことが明らかになりました。

まとめ

以上、不安・抑うつと痛みの関連性と、それらの評価ツールであるHADSの概要やカットオフ値、エビデンスについてを解説してきました。

2020年に国際疼痛学会が痛みの定義を約40年ぶりに改変してから、これまで以上に痛みの情動的側面や認知的側面の重要性が強まってきていると感じています。

この流れに乗り遅れないよう、この機会にしっかりおさえておきましょう。

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参考文献

(1)Agüera-Ortiz L, Failde I, Mico JA, Cervilla J, López-Ibor JJ. Pain as a symptom of depression: prevalence and clinical correlates in patients attending psychiatric clinics. J Affect Disord. 2011;130(1-2):106-112.

(2)Dersh J, Polatin PB, Gatchel RJ. Chronic pain and psychopathology: research findings and theoretical considerations. Psychosom Med. 2002;64(5):773-786.

(3)McWilliams LA, Cox BJ, Enns MW. Mood and anxiety disorders associated with chronic pain: an examination in a nationally representative sample. Pain. 2003;106(1-2):127-133.

(4)Psychiatric Disorders and Association with Quality of Sleep and Quality of Life in Patients with Chronic Pain: A SCID-Based Study.Bilge B Annagür,2014

(5)Chronic Pain with Neuropathic Characteristics in Diabetic Patients: A French Cross-Sectional Study.Bouhassira D,2013

(6)Hospital Anxiety and Depression Scale (HAD尺度)は慢性疼痛に対する認知行動療法の効果判定に有用である.松永ら,2004

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