以前、「論文を読むときに絶対やっちゃダメなこと」というテーマで、論文を読むときに必ず抑えておくべき点について解説したのですが、今回はその続編です。
前回の内容を簡単におさらいすると…
論文を読むときにやっちゃいけないこととして「アブストラクト=要約だけを読んで理解したつもりになること」というのを挙げさせて頂きました。
その理由として、要約には『SPIN』というのがあってこれは一言で言うなら「都合の良い解釈」のことです。
つまり、本文上に書かれてある『結果』からは到底そのような解釈はできない、自分たちにとって都合の良い情報が切り取られた状態で要約には表記されている場合があるのです。
これが、論文を読むとき「要約だけを読んで理解したつもりにならない方がいい」ことの一つの理由なんですが、実はもう一つだけ。
もう一つだけ、要約だけを読むのはやめた方がいい理由があって、今回はその点について抑えていきたいと思います。
【論文の要約だけでは不十分】効果的な論文読解法とその重要性
\結論/アウトカムが分からない場合があるから
論文を読む際に、要約だけ読んではいけない理由。
それは、「要約にはアウトカムとなる評価指標が記載されていないケースがあるから」です。
アウトカム?評価指標?
この点に関してもう少し理解を進めやすくするために、以降では実際の交えながら解説していきます。
要約に結果だけ書かれているケース
今回参考例として活用させていただく論文はこちらです。
まずは、この論文の要約部分を確認しましょう。
①method(方法)
A comprehensive search of the literature published between January 1990 and February 2017 was conducted using the following electronic databases; AMED, CINAHL, Cochrane Library, EMBASE, MEDLINE, PsychInfo and SPORTDiscus. Only randomized, controlled trials, published in English, evaluating the effect of trunk exercises on trunk performance and/or upper limb function post-stroke, were included.
1990年1月から2017年2月の間で『脳卒中後の体幹機能および上肢機能に対する体幹トレーニングの効果を評価した研究』に関して書かれた論文をさまざまなデータベースをもとに検索した。ただし対象となったのは英語で発表された無作為化対照試験(RCT)のみである。
②result(結果)
A total of 17 studies involving 599 participants were analysed. Meta-analysis showed that trunk exercises had a large significant effect on trunk performance post-stroke. This effect varied from very large for acute stroke to medium for subacute and chronic stroke. None of the included studies had measured the effect of trunk exercise on upper limb impairment or functional activity.
599名の参加者を含む合計17件の研究が分析された。その結果、体幹トレーニングは脳卒中後の体幹の運動機能に有意な効果があることが示され、これは脳卒中急性期で最も大きく、亜急性期および慢性期脳卒中では中等度出会った。なお、体幹トレーニングが上肢の運動機能に及ぼす影響を調べた研究はない。
以上、方法と結果だけをみると、「◯◯という方法を行うと××がよくなりました」というような部分が読み取れるかと思います。
多くの論文は、要約部分における『結果』の欄で有意差があったorなかったというような結論を示していることがほとんどです。
つまり、要約だけを読んだとしてもある種「この方法には効果がある!」ということが分かってしまうのですが、実はここが落とし穴です。
要約にアウトカムがない!
要約を読めば、確かに「効果があるorなし」みたいな部分はその文面から読み取れてしまうのですが、この時必ず抑えておきたいこと。
それは、「どのようなアウトカム(評価)を用いているのか?」ということです。
で、それを踏まえた上で先ほどの論文を見ていきたいのですが、この論文では「脳卒中後体幹トレーニングを行えば体幹の運動機能は向上しますよ」ということは記載されています。
ただし、「なんの評価を用いてその結論を導き出したのか?」までは言及していないんですね。
つまり、アウトカムとなる指標がないのです。
実は、このアウトカムとなる評価についてが(全部ではないですが)要約部分には記載されていないという論文がそこそこあるのです。
これには、様々な理由があって例えば要約に含むことができる文字数の問題などはその一つです。
日本語であれ、英語であれ要約に含めることのできる文字数には制限があるので、著者は研究の内容をできる限り簡潔にまとめなければなりません。
そうすると、評価名などは(特に英語だと)それだけで文字数をかなり使ってしまうので要約ではあえて記載しないということを行ったりするわけです。
これは、対象者などでも同様です。「脳卒中の〜」や「慢性疼痛の〜」といった広い括りで要約に記載することはあっても具体的な対象者の特徴(取り込み基準や除外基準)については、本文内で詳しく述べられていることがほとんどです。
アウトカムは本文の中に必ずある
じゃあ、効果があったか否かの根拠となるアウトカムはいったいどこに記載されているのか?
というわけで、本文を探してみると…
『2.Methodology(方法論)』の中にしっかり記載されていました。
The studies include a minimum of one of the following primary outcomes:
a.Trunk performance as measured by Trunk Control Test (TCT) or the Trunk Impairment Scale (TIS).
この研究では、以下(上記)の主要アウトカムのうち最低1つを含む。
体幹コントロールテスト(Trunk Control Test:TCT)または体幹障害尺度(Trunk Impairment Scale:TIS)により測定されたもの。
このように、要約では記載されていませんが本文中には必ずアウトカムは記載されているので、要約だけを読んで「効果がある!」と判断するのはかなり危険なのです。
なぜアウトカムを見ないといけないのか?
では、最後に。
「なぜ、アウトカムを見ておかなければならないのか?」この点について解説します。
論文を読むときに、アウトカムを抑えておかなければならない理由。
それは、「自分自身が臨床を行った時にその効果を検証することができないから」です。
例えば、アウトカムが記載されていない要約を読んで、「この方法は体幹機能の改善に効果があるんだな!」と解釈したとしても、実際の臨床において「何の評価をもとに、どのくらい良くなったら改善があったとするのか?」は、論文内にあるアウトカムと比較しないことにはそれができません。
そうすると、何らかの評価ツールを用いて初期評価よりも最終評価で一点でも点数が上がれば「効果があった」と言えちゃうわけです。
このような「点数が上がれば全て効果あり」という臨床が繰り返されると、自分自身の臨床を振り返ることもなければ、むしろ慢心する可能性の方が高くなるので、だからこそアウトカムはしっかり抑えておく必要があるのです。
論文を読むコツまとめ
それでは、本日お伝えしてきた内容をまとめます。
- 要約にはアウトカムとなる評価が記載されてないことがある
- 具体的なアウトカムは本文内に必ず記載されている
- アウトカムが分からなければ自分の臨床の効果検証ができない
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