前回、痛みのリハビリテーションにおける『身体活動』に絞った評価をご紹介しました。
痛み(特に慢性疼痛)のリハビリテーションを進めていく上では、痛みそのものにフォーカスするよりも身体活動量などをアウトカムにする方が効果的なケースもあるので、ここはぜひ抑えておきたいところです。
さて今回は、痛みの3つの側面である『感覚』『情動』『認知』にフォーカスし、それぞれの側面にどのような評価ツールがあるのか、それについてご紹介していきます。
この記事を読めば…
- 痛みの3つの側面の評価を網羅的に覚えることができる
- 明日からの臨床で痛みの評価の視点が増える
という状態になれるかと思いますので、いま現在痛みのリハビリテーションに携わっている方は是非最後までご覧ください。
痛みの評価~感覚・情動・認知的側面の評価一覧~
感覚的側面
痛みの強度
①視覚的アナログスケール(VAS)
・100㎜の線上で痛みの強度を教えてもらう
・『痛みが全くない』状態を0㎜、『今まで経験した中で最も痛く耐えられない痛み』を100㎜として、現在の痛みの程度を100㎜の線上に指さしてもらう
・検者は、指さした線上の数値を読み取り痛みの程度を確認する
②数値評価スケール(NRS)
・痛みの強度を0~10の数値で表記または口頭で回答してもらう
・今まで経験した最高の痛みを10として現在の痛みとを比較する
痛みの性質
①SF-MPQ2
・痛みの性質(ズキズキ、ビリビリなど)を評価する評価ツール
・痛みの種類を4つ(持続的・間欠的・神経障害性・感情的)に分類している
・全22問、0~10段階で評価する
情動的側面(不安・抑うつ)
①Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)
・『不安』と『抑うつ』の評価スケール
・14項目(不安尺度7項目・抑うつ尺度7項目)の質問から構成される自己記入式の評価尺度である
・各項目4段階(0:全く良好~3:極めて悪い)で回答し、得点が高いほど不安と抑うつが強いことを示す
- 0~7点:negative(不安または抑うつなし)
- 8~10点:doubtful(疑いあり)
- 11~21点:definite(確定)
②State-Trait Anxiety Inventory(STAI)
・不安は大きく『状態不安』と『特性不安』の二種類に分けられる
- 『状態不安(A-State)』:特定の場面で一過性に感じられる不安
- 『特性不安(A-Trait)』:状況に左右されない長期的に感じている不安(不安に陥りやすい性格)
・『状態不安』&『特性不安』とも各20問ずつで計40問からなる
・各問い全て4段階評価となっており、合計は80点満点換算となる。(点数が大きい程不安が強いことを示す)
『状態不安』:男性41点/女性42点
『特性不安』:男性44点/女性45点
認知的側面(痛みに対する捉え方)
①Pain Catastrophizing Scale(PCS)
・痛みに対する『破局的思考』を評価するスケール
・3因子(反芻・無力感・拡大視)13項目で構成されている
- 『反芻』:1.8.9.10.11
- 『無力感』:2.3.4.5.12
- 『拡大視』:6.7.13
PCSに関する諸家の報告一覧
慢性疼痛患者のPCS得点は、健常者に比べ合計点も下位尺度(反芻・無力感・拡大視)でも高い値を示すことが分かっている。
『身体的な機能障害』と『破局的思考』、どちらが生活障害への影響が強いか調べた研究では、破局的思考の影響の方が強いことが報告されている。(Severeijns.2001)
TKA後患者においてPCS総得点が16以上になると慢性痛に陥りやすい。(Riddle.2010)
破局的思考の傾向の強さと痛みの強度には関連性がある。(Sullivan.2001)
- PCS(無力感)とHADS(抑うつ)は関連する
- PCS(拡大視)とHADS(不安)は関連する
②Tampa Scale for Kinesiophobia(TSK)
・運動に対する恐怖感を評価する
・17項目4段階(少しもそう思わない・そう思わない・そう思う・強くそう思う)
・最低点が17点、最高が68点となっており、高値になるほど運動恐怖が強いことを示す
37点を超えると運動恐怖が強い状態といえる
運動恐怖と慢性腰痛の関連性を示した研究を見ると、非特異的慢性腰痛患者(142名)のTSKを評価したところ、平均点が45点とカットオフを超えていたとの報告がある。
さらに、疼痛強度の評価であるであるVAS、腰痛患者の日常生活活動を評価するODIとの得点も高く相関がみられた。
つまり、運動恐怖は痛みの強度や日常生活に影響を及ぼす可能性が高いといえる。
※補足※
PCS・TSKのスコアが高い被験者ほど疼痛閾値が低い(Parr.2012)
③Pain Self-efficacy Questionnaire(PSEQ)
・自己効力感を評価する
自己効力感とは…
適切な行動をうまくできるという個人的な確信(Bandura.1977)
とされている。
自己効力感が高い程痛みの強度が低く、慢性疼痛患者では自己効力感が低下していている(松原.2018)
・評価スケール自体は60点満点で評価
- 41点以上:自己効力感が高い
- 20点未満:自己効力感が低い
※補足※
PSEQとPDAS・PCSには負の相関関係がある(Skou.2016)
つまり、「自己効力感が低いほど抑うつや痛みに対する破局的思考が強い。」と言える。
その他痛みの評価
Modified Fall Efficasy Scale(MFES)
・MFESは日常生活における自己効力感を評価することが可能なツール(日常生活を行う自信を評価)
※PSEQは『痛み』に対する自己効力感を評価(痛みがあっても活動できるかどうか)
なお、痛みに関する評価をもっと知りたい、もしくは評価用紙が手元に欲しい方は、こちらの書籍が超絶オススメです。
書籍の最後の方には、評価用紙が一覧で添付されてあるのでコピーして使えます。
コメント
コメント一覧 (2件)
初めまして、埼玉県で理学療法士で勤務しております。
現在、大学院にて慢性疼痛と疼痛の認知的要因の研究をしております。
慢性疼痛の予測の可能性について、PCSやPSEQは有効と考えております。
PSEQのカットオフについての文献を検索しておりますが、もし、よろしければ先生が検索された文献を教えて頂けるとありがたいです。
また、PSEQとPDAS・PCSには負の相関関係がある(Skou.2016)の文献も教えて頂けるとありがたいです。
お忙しい中、大変恐縮ではございますが何卒よろしくお願いします。
岸本先生、はじめまして。
この度はご連絡頂きましてありがとうございますわ
ご質問の件(カットオフ、相関関係)についてのご返答ですが、今回私が参考にさせて頂いたのは松原貴子先生、沖田実先生が著者の『ペインリハビリテーション入門(白の本)』です。
その中に、ご質問頂いた事の内容が記載されています。